1949-2012 京都府生まれ、日本画家、東京藝術大学工芸科卒業、ロンドンルフェーブルギャラリー・上海美術館・北京友誼館他個展57回、1977年出家得度し日蓮宗僧侶となる、岩絵具にアクリルも併用し、厚いマチエールに落ち着いた色調で情緒に流れない重厚な風景画を制作、また扉風作品にも取り組む、2001年身延山大学客員教授、2002年上海美術館に「浄界盛麗」収蔵、芝增上寺天井画「白趣香風」制作、日蓮宗・橫浜六浦上行寺副住職

澁澤卿「浄界淡煙」日本画 6号大 松坂屋取扱 共シール
静寂に包まれた山深い景色に、薄紫の紫陽花が咲き誇るこの作品「浄界淡煙」は、日本画家であり日蓮宗の僧侶でもあった澁澤卿による一作です。画面奥には、森に半ば隠れるように三重塔と石塔が佇み、時間を超越した霊性を湛えています。その静けさの中で、しっとりと濡れた紫陽花の花々が、静謐な美しさを際立たせています。作品タイトルの「浄界淡煙（じょうかい・たんえん）」は、「清らかな仏の世界にたなびく淡い霧や気配」を意味し、まさにこの画面全体を覆う、湿潤でやわらかな空気感を象徴しています。絵の中に漂うその霧は、ただの自然現象ではなく、見る者の心を現世の喧騒から解き放ち、内なる静けさへと導く精神的なベールでもあるのです。

澁澤卿は、東京藝術大学で工芸を学び、1977年に出家得度したのちも創作を続けました。伝統的な岩絵具にアクリルを併用し、厚く塗り重ねたマチエールによって、風景に重厚さと深みを与えています。特にこの作品では、紫陽花の花びら一つひとつに丹念な筆致が感じられ、葉の緑や建築物の墨色との対比が、落ち着いた色調の中にも静かな生命力を感じさせます。写実を超えて、宗教的な精神性を宿したこの風景は、澁澤卿独自の“浄界”すなわち心を洗い、癒すための場を描いたものであり、絵画としての存在を超えて、ひとつの祈りのかたちとして私たちの前に現れています。画伯の古都風景の名画です。