トリオ9R59
のちにミズホ通信を興された高田継男氏が開発・設計し、
1960年に発売された大ヒット商品であり、ロングセラーモデル。
完成品33000円、球なしキット18500円の2ラインで販促を展開し
結果、多くのアマチュア無線愛好家を育てた功績は非常に大きいとされます。
アルミシャシー、パネルの高一中二受信機の自作に取り組んだ当時のアマチュアにとって、
ヘビーデューティーな鉄ケースと精緻な横行式スケール、野心的なQマルチプライヤを装備する
9R59は光り輝いていたに違いありません。
しかしながら課題はあります。
許可されたばかりのハイバンド21MHz、28MHzに対して、性能不足が著しく
高周波増幅段6BA6のスペック不足が開発時から判明していたようです。
しかし、依然アマチュア無線のメインストリートが3.5MHz、7MHzだったこともあって、
コストと保守性を優先した結果、ハイバンドに強い高gm管の採用は見送られ、
この状況はさらに、後継機の9R59DSにまで続くことになります。
後年、開発者の高田氏は、著述のなかで9R59シリーズの性能アップのテクニックとして、
RF増幅管のコンバージョンを推奨されています。すなわち、
6BA6に換えて、2倍以上高gmの6BZ6を用いることでハイバンドが活き返るとのこと、
他のバンドも言わずもがなでしょう。
製品化では果たせなかった開発者の想いを十分に伝えるエピソードであります。
さて今回の9R59は、
ケースは赤錆に激しく浸食され、電気的にも不動の廃物に近い物件でした。
ケースに残る無数のディンプルは深く喰いこんだ錆の名残です。(写真にあげています。)
気になるのは実装されていたNHKマーク及び年月を表す1961印字の真空管です。
何か特別な経緯があるのでしょうか。興味をそそります。
このラジオに対する処置をお示します。
〈ボディ保全処置〉
・ワイヤブラシによる鉄板腐れしろの除去、化学反応による黒錆転換。
・サーフェイサー吹付
・シャシーペイント(ストーブ耐熱シルバー)
・パーツクリーニング
・美装
〈電気的処置〉
・電源フィルターコンデンサ交換(シャシー下ラグ組)
・ペーパーチュブラーコンデンサ撤去、更新
・劣化部品チェック
・ロータリーSW酸化被膜除去
〈機能改善処置〉
・RF増幅段6BA6→6BZ6コンバージョン
さて、6BZ6コンバージョンの効果は絶大です。
信号強度の増加がSメータに現れ、音量が増して、IF、AF(ボリューム)を絞る場面もあります。
中波ではDXがより効いて、1300kHz~1500kHzの間にこれ程多数の局があったのかと驚きました。
3~4MHzではハム局の交信が聞けました。
6MHzより上から14MHzまでは、きら星の如く入感があり、まさにBCLのメインストリートを実感しました。
そして、くだんのハイバンドですが、14MHzから30MHzのスケールのなかで、短波局が
4~5局、苦も無く入感してまいります。
以上は、兵庫県工房、木造住宅室内簡易的な室内アンテナ(リード線3m地上高10m)のセッティングですので、
推奨の20m近い標準アンテナ、アース設置だとどうなるのでしょう。ハム局の受信も出来るのでしょうね。
そうでなくとも、秋の夜長、全バンド、入感チェックをするだけで時の経つのを忘れてしまいます。
交換したNHKマークの6BA6は、6BZ6の箱に入れて添付します。これらの球は、ピンアサインメントが異なり、
配線を変えています。そのまま入れ替えは不可です。ご注意ください。
当時9R59で活躍されたOMの方はご健勝と存じます。
この美しく輝かしいスペシャル仕様の9R59はきっと、美しい青春の思い出と輝きを取り戻してくれると思います。
また、自作にせよ、製品にせよ入手が難しい高一中二の真空管セットがどんな物であったのか、
知りたい方は是非ご検討ください。素晴らしい体験になると思います。
受信に際し、アンテナ線と外付けスピーカーをご用意ください。
尚、性能は受信環境に左右される部分があることの理解も必須です。
どうぞよろしくお願い申し上げます。