この本は、カルネ・ド・バル(舞踏会の手帖)くらいの小振りなもので、
愛とロマンスに関する本(散文詩?エッセイ?)の様です。
巻末にパリで印刷された1827年のカレンダーが付いています。
目次を見ると
薔薇、冬、ロマンス、迷子、嵐、2人の羊飼い、私の父の為に祈って下さい、
過ち、私の村、鳩、2人の花嫁、狂気、私にとってはただの思い出、
薔薇とスミレと蝶、愛によって傷ついた友情、盲目の父、愛の効果、
などがあります。エッセイのような小説のような感じだと思います。
1800年代の本と言うと、革装丁の背表紙に金張り文字に金天地、
見返しにマーブル紙、精緻な版画の挿絵などが入った、
当時としても高価なもので、見返しに「蔵書票」を貼って「所有する」一つの
財産であり、本を所有出来るのは、
屋敷に図書室を持つ富裕層に限られていたと思います。
その中で、貴婦人用の、しかも持ち運びに適したサイズで作られた本は
とても珍しいと思います。
教会に持って行く祈祷書などはあっても、
通常の内容(ポエム、小説、エッセイ集etc)などで、
携帯用と言うのは、ほとんど見ないので、量産品ではないと思います。
次に面白いのが、本の装飾に「ガラス絵」の手法が使われている事です。
ガラス絵は透明の支持体(主にガラス板)の裏に描いて表から鑑賞するものです。
フランスではLe fixe sous verreと呼ばれています
古代にはフェニキア、アッシリア文明で使われ始めた伝統ある装飾技法で、
技術のピークはルネサンス期と言われています。
ガラス産業と共に発展した為、中世ではまずヴェネチアで導入され、
フランスでは17世紀から18世紀のパリに良い工房が出来て、
主題も、それまでの単純なスケッチから風景画へ、
ブーシェなど大家の作品の模倣、宗教的なシーンなど、大作も生まれました。
高価な物は色数が多いか、あるいはモノトーン絵の場合は金が使用されたそうです。
主に邸宅の室内装飾用でした。
19世紀後半にもなるとガラス絵は一般化して、
お菓子の蓋や飾り箱などにも嵌められ、より気軽に楽しまれました。
ガラス絵が普通に書くより難しいのは、
仕上がりが左右逆になる事と、
最初に置いた色(絵)が一番上に来るので
(最後に描く部分を最初に描く?)、
出来上がりを頭で想像しながら、描く必要があるそうです。
アイテムの場合で見ると、
例えばミニアチュールの貴婦人は左向きですが、描いた時は右向きですし、
もう片方の風景絵も同じです。
また、アウトラインの役目の黒は、
金粉をニカワで練った金色顔料をま透明板に置き、
鋭利なものでその置いた金を削り取るようにして描いてから、
ブラックを乗せ、
削った所だけ黒を見せてモチーフとしています。
エッチングの技法です。
ミニチュアチュールの背景のマーブル模様に使用されている顔料は、
金と黒の顔料よりは粘度が緩やかな顔料、
例えば水性のグワッシュ顔料に似たものではないかと思います。(推測)
グワッシュは、水に溶く事は出来ますが乾くと耐水性になります。
白とグレーのグワッシュを置いて、筆か指でふわーと混ぜて、
マーブル模様を付け、乾かしたものだと思います。
推測ですが描いた順は、
金を塗る→金を削り取る(エッチングの手法)
→黒を塗る→マーブルの背景(グワッシュ顔料)を付ける
と想像しています。
このガラス絵を本の表紙に使っている物は、
今まで手に取った事が私はありません。
もう1点は、素材がコンポジション、最初期のプラスティックなのも
ユニークです。
プラスティックが最初に開発されたのは1835年で、
フランス人化学者アンリ・ヴィクトル・ルニョー(セーブル製陶所の所長も務めた)と
ドイツ人の学者によってで、塩化ビニルとポリ塩化ビニルの粉末の作成に成功し、
これが史上初のプラスティックだそうです。
(初めて製品化されたのは1869年アメリカ。セルロイドのビリヤード球でした。)
初期のプラスティックは引火性が強く、紫外線で変色し易いなど難点が有る中、
1820年代と言う非常に早い段階で作られたにも関わらず、
現在も透明度を保ち、周囲のオルモルの枠のおかげか、厚みの為か、
綺麗に保存されています。ガラス板をもし使っていたら、ヒビが入ったり割れたり
していたと思いますし、貴婦人の持ち物としては重過ぎますし、当時の手提げ袋に
入れるにも不適切です。革表紙の本なら沢山ありますが、これは少ないはずです。
なお、ミニアチュールの支持体に、象牙の代わりにコンポジションが
使用される事はありました。
それは象牙が高級だからと言うよりも(高級には違いないが)
象牙板は描く前に、
木槌で叩いて表面を滑らかにする必要があり、それでも繊維質っぽい表面が、
細密画を描くのに適さないと画家が判断すれば、コンポジションを使用する事も
ありましたし、象牙に比べると、コンポジションの方が
(不透明なコンポでも)、
裏から色を塗って、表現に深みを持たせることも可能でした。(色が染みない?)
19世紀は象牙の代用品としてのコンポでも、18世紀は象牙よりもコンポの方が、
結構、少なく貴重な素材だったのではと思っています。(推測です)
以上のように、(間違いもあるかもしれませんが、)
色々と、歴史背景的にも素材的にも、面白いアンティークです。
周りはオルモルと言う薄手の金属で、
これもルイ16世時代に開発された金色の合金で、今も綺麗な金色です。
角のエンボスの模様など、いかにも最期のブルボン王朝と言う感じです。
中のページは、外れている箇所もありますが、だいたいきちんとついています。
丁寧に扱えば、この、ページの欠損、破れ、折れなどが一枚もない状態で、
保存出来ますし、ページをめくって読む事も可能です。
間の銅版画も、1800年代後半の、ありふれたファッションプリントと違い、
例えば貴公子の脚の筋肉の付き方などまで、綺麗にエッチングの技法で
表現されている質の高いものです。
銅板画の前に保護用の薄紙が入っており、
貴重な品物だったことが伺えます。
珍しい品物ですので、古書コレクターの方にもご覧頂きたいアイテムです。
コンディション
・中央付近に外れているページが数枚、外れそうなページが数枚、
はあるものの、大半のページは糸で綴じられている状態。
(画像にページの隙間があるが、糸で繋がっている)
普通にめくる事が出来る。
扱った後は、ページが少し浮いた場合、トントンしてもとに戻してから
保管すると綺麗に保てる。ほとんどのページはその必要もなく閉じられている。
・カレンダーはきちんとついている
・3辺(天地、小口)は金が塗ってある
・見返しのピンクは綺麗に色を保っている
・金の枠は、経年はあるが全てきちんとしている
・コンポのパネルは、目立つ傷、ヒビ、割れ、そりはない
・アンティークの本として良い状態
追加画像を必要な場合はお知らせ下さい。
本を傷めない範囲内で追加で撮影します。
(オークションページには貼れないのでブログに貼ります)
【サイズ(約)】
ページ数71&カレンダー
タテ10.5cm×ヨコ6.45cm×厚み1.5cm
101g