廃盤
4CD
ステレオで登場!
ワーグナー:
楽劇『ジークフリート』全曲
ヴィントガッセン、
ホッター、
ナイトリンガー、
グラインドル、ほか
ヨゼフ・カイルベルト(指揮)
バイロイト祝祭管弦楽団
1955年8月 バイロイト祝祭劇場[ステレオ]
世界初のステレオでの『ニーベルングの指環』の録音は、1958年から1965年に行われたショルティ/カルショウによるスタジオ・セッションではありません。1955年夏のバイロイト・ライヴが、なんと全編ステレオで残されていたのです。
指揮はヨーゼフ・カイルベルト。プロデューサーは、当時まだヴィクター・オロフの助手だった若き日のピーター・アンドリー(後に「アート・オブ・コンダクティング」にも出演)が務め、エンジニアは辣腕ケネス・ウィルキンソンと、技術力のロイ・ウォレス、そしてまだ若かった後の天才エンジニア、ゴードン・パリーがアシスタントというデッカ気鋭のチームにより、ステレオ録音そのものが大変珍しかった時代に、『指環』全曲のライヴ・レコーディングがおこなわれていたのです(ちなみにピーター・アンドリーは、オロフと共にこの3ヵ月後にはウィーンのムジークフェラインでベームの『影のない女』のステレオ録音をおこなっています)。
ノイマンM49マイクロフォン6本を使用してのここでの録音は、しかしながらある意味“賭け”でもありました。一回設置されたマイクは一度演奏が始まれば二度と触れることができなかったからです。6本のうちの3本は、照明固定用のバーに一緒に吊り下げられ、舞台上20フィートにありました。それらが集約されたのが、ロイ・ウォレスの設計した6チャンネル・ミキサーST2。そして2台のAEG TR9テープ・レコーダーに、ヴィントガッセン、ホッター、ヴァルナイなど、そうそうたるワーグナー歌手たちの競演と、カイルベルトが指揮するオーケストラが醸し出す、バイロイト祝祭劇場の独特なサウンドがステレオで収められたのです。
一連の試みは、奇跡的としか言いようのないほど成功し、近年の録音と言われれば信じてしまうばかりの瑞々しさで、半世紀前の『指環』を今に伝えているとのこと。
1955年の夏、『指環』は2チクルス演奏されました。デッカのこの実験的な試みは、1回目のチクルスにおけるヴァルナイ、ブロウェンスティーン、ウーデ(それぞれ2回目には不参加)を録ることにあったといっても過言ではありません。2回目も歌手の変更以外のところではバックアップに使えたのですが、基本的には本番とオーケストラ・リハーサル及びゲネラルプローベの時のテープだけでマスター・テープは完成されています。しかも、驚くべきことに、この『ジークフリート』においては、僅か21箇所のテープ・エディットしか施されていません。これはまさに、いかに実際の舞台がすばらしかったかの証左でもあります。
しかしながら、周囲の思惑や、EMIまで含んだ複雑な契約上の問題で、この『指環』がリリースされることはありませんでした。ひとつにはプロデューサーのピーター・アンドリーが、ボスのヴィクター・オロフと共に録音の翌年にはEMIに移ってしまったことが挙げられるでしょう。オロフの後任は、キャピトルからデッカに戻ったジョン・カルショーであり、彼がライヴ録音嫌いであったこと、すでに『指環』のセッション録音の計画を持っていたことが、この『指環』の存在を封印するに充分な要因であったことは容易に想像のつくところでもあります。
装丁は、4枚組ではありますが、プラスチックのマルチ・ケースではなく、先のクレンペラー・ライヴ同様の美麗紙ケースにそれぞれ紙スリーヴにCDが収められています。このスリーヴ及びブックレットには、英独の歌詞対訳のみならず、貴重な資料と写真が満載されています。
TESTAMENT社スチュワート・ブラウン氏が『なにより、この素晴らしい音楽を自レーベルで取り扱うことができたことを神に感謝したい!』というように、氏の愛情と尊敬の念が結晶したかのようなアートワークです。
ワーグナー:
楽劇『ジークフリート』全曲(4CD)
ヴォルフガング・ヴィントガッセン(T:ジークフリート)
パウル・クーエン(T:ミーメ)
ハンス・ホッター(B:さすらい人)
グスタフ・ナイトリンガー(Br:アルベリヒ)
ヨゼフ・グラインドル(B:ファフナー)、他
ハリア・フォン・イロシュヴァイ(A:エルダ)
イルゼ・ホルヴェーク(S:小鳥の声)
バイロイト祝祭管弦楽団
ヨゼフ・カイルベルト(指揮)
録音:1955年8月 バイロイト祝祭劇場[ステレオ]
コンディション良好。