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製作年： 2009年
製作国： コスタリカ/コロンビア
収録時間： 95分
出演者： パブロ・デルキ ホルディ・ダウデール ホアキン・クリメント エリサ・トリアナ
監督： イルダ・イダルゴ
制作： ラウラ・インペリアレ イルダ・イダルゴ クララ・マリア・オチョア
脚本： ----
原作： G・ガルシア=マルケス
詳細： ----
字幕： 日本語字幕
音声： ステレオ／ドルビーデジタル／スペイン語／日本語吹替なし
シリーズ： ----
メーカー： オンリー・ハーツ
ジャンル： ドラマ
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全体状態評価「Ｃ」・経年劣化「小」・カバーイタミ「小」・スリキズ「小」・レンタル落ち
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ノーベル賞作家、G・ガルシア=マルケスの同名小説を映像化したドラマ。スペインの属領だった18世紀のコロンビア。侯爵の娘が狂犬に噛まれ、悪魔憑きになったと噂される。悪魔祓いの命を受けた青年神父は、監禁された少女に対峙するが…。 【狂犬に噛み付かれ、悪霊憑きとなった少女と少女を救おうとする青年神父の許されざる愛の物語】 原作はガルシア＝マルケス。毒気を抜き、徹底した映像美は言わずもがな、無駄を削ぎ落としたストーリーがかえって目を引く。 神父役のパブロ・デルキも少女役のエリサ・トリアナも美男美女とは言い難いのもいい。第一に神父×少女という組合せで私は満足なのだ。 泉のなかのロウソク、少女の燃えるような赤毛、夢の中の邂逅。風と戯れるカーテンすらこの映画では美学である。 少女を心の底から愛おしいと感じる神父の描写をもっと堪能したかったところだが、「なにを食べても君の味がする」、「今、君のために生きている」なんて言われてみたい…。 【ラスト20分だけ釘付けになる！】 ガルシア・マルケス原作の文芸ドラマ。 文芸と言ってもノホホンとした 観やすい人間ドラマではなかった。 中世ドイツのキリスト教の勢力が強く、 科学・医学までもが異端とみなされた頃の、 "結婚まで髪を切らないとマリア様に誓った12(か13)歳の少女" と"純朴な修道士36歳"の 恋を坦々と、静かに、哀しいほど美しく描いている。 少女漫画みたいなセリフが飛び出すラスト20分は必見。 【中世といふ名の冷たき牢獄 風も力尽くこの世の果てで、しづかに燃ゆる愛の鬼火・・・】 映画と読書、共に好きな人間にとって悩ましい問題がある。 それはしばしば、映画と原作小説の狭間で引き裂かれそうになってしまうことだ。 映画マニアであっても原作に思い入れがあると、どうしても映画化作品に対して寛容になれない自分がいる。特に自分はガルシア＝マルケスのファンなので、原作を読んできた映画化作品を純粋に愉しむことができなかった。『エレンディラ』は映画としても優れた作品、のはずなのだが、原作への個人的な思い入れが強すぎて、つい否定的な目線になってしまう。『予告された殺人の記録』は、イタリアの硬派社会派監督フランチェスコ・ロージによる映画化にも関わらず、「これじゃあまるで恋愛映画だ」と思わずにはいられないラストシーンにがっかりしてしまったものだ。 だから・・・と言い訳めいた表現になってしまうが、マルケス作品は、原作を読むより先に映画を観ようと決めた。そういう訳で『コレラの時代の愛』は普通に楽しめたし、本作『愛その他の悪霊について』も先入観なく観ることができた。どちらも、やはり原作の愛読者の方々からは厳しい意見が出ている。なので自分は、後から原作を読んで愉しもうと思う。 １８世紀、スペインの属領だった頃のコロンビア。聳え立つ城壁が紺碧の海を臨む、中世の都市カルタヘナ。公爵の娘、シエルバ（エリサ・トリアナ）は、「嫁ぐまで髪を切らない」とマリア様に誓った、美しい長い髪が自慢の少女。ある時シエルバは、市場で狂犬に咬まれてしまう。狂犬病はこの時代、悪魔の病と信じられていたため、シエルバは修道院に監禁されてしまう。 司教は、息子であるカエターノ神父（パブロ・デルキ）に悪魔払いを命じる。しかし修道院の地下牢でシエルバと対峙したカエターノは、彼女はそもそも狂犬病すら発症していないと気づく。 シエルバのもとに通ううちに、やがて彼女に惹かれてゆくカエターノ。少女の幻影は夜ごと拘束具から抜け出し、そっと神父の背後に忍び寄り、囁く「私はあなたに逢うために生まれてきたの・・・」 シエルバは正気だと主張するカエターノ。しかし、古い因習に囚われた人々は、若き神父の声に耳を傾けようとはしない。司教は、息子が悪魔の誘惑に屈して堕落したと思い、教会を追放する。 少女への想いを断ち切れないカエターノは、修道院に通じる秘密の地下通路を通り、月明かりのもと、シエルバとの逢瀬を重ねるのだが・・・。 異端諮問の時代を舞台に描かれる悲恋の物語。迷信・因習・規律に支配された閉鎖的な社会で、赦されない恋に身を焦がす若い男女の哀しき道往きを、静かに映し出す映画。 女性監督、イルダ・イダルゴの描き出すラテンアメリカは静寂に包まれている。遠くから聴こえる潮騒。虫の声。忍ぶような通り雨の音。世界を構成する音は、むしろ静けさをいや増していく。そしてその静謐の中に閉じ込めたような、不思議な熱気。 外側に向って放射される、むせ返るような熱気ではなく、押さえ込んだ熱気。静かに孕んだ熱気。川面からゆらり、と立ち上る陽炎のような、人知れず、孤独の中にのたうっているような哀しい情念の影法師。 壺の中の蜥蜴は、エメラルドとシアンの鱗をきらめかせて少女の腕をすべってゆく。 水の中に落ちても、燃え続ける蝋燭の炎。その炎に向って、揺らめきながら水中を伸びてゆく少女の白い腕。 石づくりの冷たい地下牢の、月影の中で秘めやかに身を重ねる恋人たち。 最近の南米映画は、非常に繊細で静かだ。特に女性監督の手になるものは。画面の中に、南洋の植物が茫々と密生していても、荒々しい生命力は抑えられ、静かに佇んでいる。 そして、多くのことが非常に暗示的に描かれている。 本当のところを言うと、南米の映画を観るとき、期待してしまうのは、少なからず猥雑なものだったりする。ラテンアメリカ文学を好む人間としては、むせ返るような熱気の中に解き放たれた狂気の祝祭ともいえる、マジック・リアリズム的世界を覗き視たい、という思いがある。猥雑なパワーと混沌の狂騒、覆い被さる巨大植物の影、むき出しの生命力・・・。'６０年代に狂い咲いたシネマ・ノーヴォの熱気は、いまや幾層もの歴史のページの狭間にしまい込まれ、成熟の時代に取って代わろうとしている、という事なのか。 映画の冒頭、マングローブの密生する沼地をゆく小舟の上で、カメラに向って囁きかけるヒロインの姿は美しい。そして、泉の中に沈んでも燃え続ける炎も、ある種の魔術的な美しさがある。しかしそれは皆、とても静かな美しさだ。風にはためくヴェールに映った、光の舞踏のような繊細な幻影だ。 面白いのは、原作のファンの方々のレビューなどをネットで読んでみると、多くの人が「ブニュエルのような、もっと混乱した映画にすれば良かったのに」という表現をしている事である。本作の原作はまだ未読ながら、マルケスの小説は確かに、グロテスクなパワーに充ちている。肉体が腐り落ちる直前の、どろどろとした生命の断末魔と哄笑が入り混じったような臭いが。 本作にあるのは、混沌の坩堝のような、マジック・リアリズムの、沸騰する血のようなむせかえる世界ではない。女性監督のフィルターを通して、女性の感性でヒロインの心に寄り添ったかのような、絹の肌触りのような愛惜のロマンスである。それはそれで非常に魅惑的ではある。中世の面影が濃密に残る城塞都市で行われたロケは、この映画に迫真のリアリティーをもたらしている。 そうした要素を加味した上で、この映画化を良しとするかどうかは、個々の観客の好みの問題、なのだと思う。 ただ一つ、残念だと思ったことがある。マルケスがそもそもこの物語を書いたのは、自身が取材中に、とある修道院の納骨堂から２２メートルもの髪をもつ少女の頭蓋骨が発見され、それに着想を得たことがきっかけだったそうだ。 原作では、死した少女の髪が伸びてゆくという、まさにマルケス・ワールドともいえる描写があるそうなのだが、残念ながらそうしたシュールなシーンはこの映画にはなく、二人の主人公の末路も、観客の想像に委ねるような作りになっている。映画の冒頭をもう一度観直すと、ちょっとだけ判ることがあるが、非常に抑制された演出であることは間違いない。 イルダ・イダルゴ監督は、「マジック」ではないリアリズムでこの物語を描こうとしたのかもしれない。ほんの少しだけ、女性の神力を味付けに。 死後も髪が伸びるという幻想は男のエロティックな妄想で、女性にとっては、はた迷惑なことなのだろうか。それだけはちょっと観てみたかった、と思うのだが。 |
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