昭和61年(1986)に、みすず書房から出版されたW・M・ジョンストン著/訳 井上
修一・岩切正介・林部圭一の『ウィーン精神 (1)』(初版・定価5800円)である。サブ・
タイトルには「ハープスブルク帝国の思想と社会 1848~1938」と綴られている。
著者のW・M・ジョンストンは、第二次世界大戦前の1936年生まれ。 ハーバード
大学、コロンビア大学で史学と法学を修める。またフランス留学し政治学を学ぶ。
ハーバード大学大学院で学び、1965年に学位を取得した。1965年、マサチュ
ーセッツ大学史学部講師。その後、助教授、・準教授を経て教授へ昇進した。
1969年、本書の草稿で゛オーストリア史学賞に輝く。著書は他に『ウィーン、
ウィーン』をはじめ、オーストリアの思想・文化に関する論文が多数ある。
ちなみに、本書の続編も好評を博した。
中世の花の都は、パリではなくウィーンであった。古きの芸術家たちはかの地
を目指した。人々は音楽を愛し、自然との対話を楽しんだ。芸術に親しみ欲得
に溺れず、市民の皆が謙虚にして心豊かに暮らしていた。そんなウィーンへ、
グルックやベートーベン、ブラームスはドイツから、モーツァルトはザルツブルグ、
ハイドンは北東部の田舎町から、それそれウィーンの檜舞台を目指して移住した。
地元育ちは、シューベルトやハン・シュトラウスらがいた。近現代には、ブルックナ
ーやマーラー、ツィンマーマンやシェーンベルクらが続いた・・・。
音楽、だけではなく、政治や経済、法律や心理学、歴史や文学、哲学や宗教、
医学や造形芸術、都市計画など、ハプスブルク帝国にはすべての分野におい
て、内的に知覚を深める人材が集まった。本書は、副題にもあるように、三月
革命の起こった1848年から、オーストリアがナチス・ドイツに併合される19
38年までの約一世紀間が描かれている。ハプスブルク大帝国の終焉には、
その栄光と敗北の歴史の一切が凝縮している。輝き多き所には陰影の闇も
深い。それはパリの断頭台の露と消えた、ハプスブルク家出身の王妃・マリ
ー・アントワネットの生涯のように・・・・。
この約一世紀間に、前出のブルックナーらの音楽家以外にも、多彩な人材
群が輩出された。ウィーンには、欧州全土に門戸を開き多民族が住み、ないま
ぜとなった文化は豊潤に熟成され〝ウィーン気質〟を作り上げた。画家のクリ
ムトやシーレ。
ウィーン楽団を創設したシュリックや建築家のアドルフ・ロース。 心理学者の
フロイトをはじめ、哲学者のフッサールやブーバー、ヴィトゲンシュタインやブレ
ンターノ、エーレンフェルスやマウトナー、シュパンやアドラーら・・・。
物理学者のエルンスト・マッハや法学者のケルゼン。美学文芸批評家のルカ
ーチやシオニズム運動家・医学者のヘルツル。経済学者のメンガー兄弟やシュ
ンペーター、社会学者のオットー・パウワーなど、この源から流れを汲んだ著名
人は枚挙に暇がない。
本書には70余名以上のその横顔と生き方が紹介されている。稀に見る豊
かな文化大地が、なぜウィーンに息づいていたかをハプスブルク家の光芒を
軸に、その思想的バックボーンを本書は丹念に読み解いている・・・。
本の状態は、全体的には美本に近い「上」であるが天に微小埃シミあり。
若い頃に購入したもので一読した後に大切に保管していたものだ。分厚い
本なので、送料はレターパックプラス520円です。